瞳に映して
- アルフレッドとリュールがパートナーになってからのお話。最終回直前。
「君は時折、遠い場所を見ているんだね」
そう紡がれた言葉は、私の胸をじりと焦がした。
遥か遠い生まれ故郷。千年前の邪竜の私。
赤い髪と瞳を持つ「私」に出会ってから、考え込むことが多くなってしまった。
もしも母さんが力を分け与えてくれなかったら、彼らとーーアルフレッドと、仲間として出会うことはなかっただろう。
「母さんのことを考えていたんです」
「ルミエル様か……」
今ならどうして母さんが私にこんなにも力を分け与えてくれたのか、理屈ではなく心で理解することができる。
それでも。
もしも今隣にいてくれたら、私たちのことを祝福してくれただろうか。
「神竜様」
そう真剣な声で呼びかけられ振り向くと、真っ直ぐな瞳でこちらを見る彼がいた。
「アルフレッド……?」
「君は、過去に思いを馳せることがこれからもあるかも知れない。僕だって、そんな時はないとも言えないからね。でも」
彼がかつりと靴を鳴らし近付いてくる。
まっすぐ伸ばされた腕は、手は、吸い込まれるように私の頰を撫でた。
「どうか、今だけは僕を見て欲しい。その瞳に、哀しみの色が混ざるのを見過ごしてはおけないんだ」
ーーいつも優しいアルフレッドが、殊更柔和な声で告げる。
もしも、もしもこの瞳に本当に彼だけ映せたら。
戦や母さんや千年前の私や。
邪竜と神竜の自分のことすら忘れて、彼だけを映すことができたなら。
どんなに幸せだろう。
でもきっと、私自身が赦さないだろう。
それは逃げることと同じだから。
「私は」
「何も言わなくていいんだ」
矢継ぎ早に重ねられた言葉に、思わず喉が詰まる。
「無理にとは言わないよ。……これだけは、信じていて欲しい。いついかなる時も、僕は君の傍にいると誓うと」
優しく抱き止められた彼の体からは、花の匂いがして。ここがどこなのか、分からなくなってしまいそう。
ずっとこの香りに埋もれていたい。
ただ、彼の隣を歩んでいたい。
そう願うのは罪でしょうか。
「……君だけが思い悩むことはないからね」
まるで私の心を読んだかのように、アルフレッドが言の葉を紡ぐ。
「私も、できる事なら貴方だけを映していたい。この香りを私だけが感じていたい。……我儘ですね、私は」
「我儘ではないさ。寂しくなったら、いつでもおいで。そこに僕はいるよ」
嗚呼。千年前の私に教えてあげたい。
居場所はここにもあるのだと。
もう独りぼっちでいる必要はもうないのだと。
「ありがとうございます。私は幸せ者ですね」
気付けば服に濃い色が落ちていた。
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2023.2.23
そう紡がれた言葉は、私の胸をじりと焦がした。
遥か遠い生まれ故郷。千年前の邪竜の私。
赤い髪と瞳を持つ「私」に出会ってから、考え込むことが多くなってしまった。
もしも母さんが力を分け与えてくれなかったら、彼らとーーアルフレッドと、仲間として出会うことはなかっただろう。
「母さんのことを考えていたんです」
「ルミエル様か……」
今ならどうして母さんが私にこんなにも力を分け与えてくれたのか、理屈ではなく心で理解することができる。
それでも。
もしも今隣にいてくれたら、私たちのことを祝福してくれただろうか。
「神竜様」
そう真剣な声で呼びかけられ振り向くと、真っ直ぐな瞳でこちらを見る彼がいた。
「アルフレッド……?」
「君は、過去に思いを馳せることがこれからもあるかも知れない。僕だって、そんな時はないとも言えないからね。でも」
彼がかつりと靴を鳴らし近付いてくる。
まっすぐ伸ばされた腕は、手は、吸い込まれるように私の頰を撫でた。
「どうか、今だけは僕を見て欲しい。その瞳に、哀しみの色が混ざるのを見過ごしてはおけないんだ」
ーーいつも優しいアルフレッドが、殊更柔和な声で告げる。
もしも、もしもこの瞳に本当に彼だけ映せたら。
戦や母さんや千年前の私や。
邪竜と神竜の自分のことすら忘れて、彼だけを映すことができたなら。
どんなに幸せだろう。
でもきっと、私自身が赦さないだろう。
それは逃げることと同じだから。
「私は」
「何も言わなくていいんだ」
矢継ぎ早に重ねられた言葉に、思わず喉が詰まる。
「無理にとは言わないよ。……これだけは、信じていて欲しい。いついかなる時も、僕は君の傍にいると誓うと」
優しく抱き止められた彼の体からは、花の匂いがして。ここがどこなのか、分からなくなってしまいそう。
ずっとこの香りに埋もれていたい。
ただ、彼の隣を歩んでいたい。
そう願うのは罪でしょうか。
「……君だけが思い悩むことはないからね」
まるで私の心を読んだかのように、アルフレッドが言の葉を紡ぐ。
「私も、できる事なら貴方だけを映していたい。この香りを私だけが感じていたい。……我儘ですね、私は」
「我儘ではないさ。寂しくなったら、いつでもおいで。そこに僕はいるよ」
嗚呼。千年前の私に教えてあげたい。
居場所はここにもあるのだと。
もう独りぼっちでいる必要はもうないのだと。
「ありがとうございます。私は幸せ者ですね」
気付けば服に濃い色が落ちていた。
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2023.2.23