誓いは永久に。願いは蒼空に。
- タナッセ愛情ED想定。ラブラブな展開などはありません、ご注意ください。
クリスマス。
神に祝福されるはずのその日、悲劇は起きた。
ユニヴェール78期生で皆のことをよく見て回る、良い後輩ーー立花希佐ーー
そんな自慢の後輩とクリスマスに教会に赴くことになった。
子供達は立花をおにーちゃんと慕いはしゃいでいる。
立花も楽しそうで、つい俺まで嬉しくなってしまう。
こんな感情が俺にもあったのだと、気付かされることが多かった。
ジャンヌ志望の立花をよく慕っている男子が、ケーキを持ってくると出かけてから幾分経った。
立花は「少し遅いですね」と心配しているらしく、「私見てきます!」と俺の返事も聞かずに飛び出していった。
一刻後、悲鳴と轟音。
何かが叫ぶ音と、それに群がる人影が見えた。
ーー嫌な予感がする。
「ちょっと見てくる、お前達はここにいるんだぞ」
そう子供達に告げ、教会の外に出る。
間も無く「立花のおにーちゃん!!」とつん裂くような悲鳴が耳に届いた。
「立花……?」
胸中に膨れ上がる不安と恐怖。何かが、何かがあったのだ。
「立花!!」
次第に足は速まり、冷や汗が溢れ出す。
人を掻き分け群衆の中心に立つと、立花が倒れていた。
……倒れていた。
何故?どうして立花が倒れている?
考えるよりも早く駆け寄っていた。
「誰か救急車を!」
周りの群衆は事故だの倒れてるだの傍観するだけで、誰も手配する様子はない。
こんな時、普段携帯を持ち歩いていない己を恨んだ。
「立花、立花!俺の声が聞こえるか!?立花!!」
「…………カイ、さん……?」
か細い、今にも途切れそうな声が発せられる。
否、溢れたと表現した方が正しいかもしれない。
「大丈夫か、今救急車を教会に手配してもらっている、大丈夫だ、大丈夫だからな!」
「カイ……さん」
顔面は蒼白で、腹部から出血している。
応急処置を施そうが、出血は止まってくれない。
「すみません、心配を……かけて……」
「そんなことはいい!自分の心配をーー」
「ごめんなさい」
思いの外はっきりと告げられた言葉に、思わず息を呑む。
何を、何を謝っているんだお前は。何に対して謝っているんだ。
「嘘を……ついて、いました」
「嘘……?」
「だから、ごめんなさい。それと、ごめんなさい」
立花の瞳から大粒の涙が溢れる。
「私は、大丈夫です」
そう言って彼は意識を失った。
どれくらいの時間が経っていたのだろう。
それ程でも無い気がするが、俺にはとても長く、永く感じた。
「嘘っすよね……?立花が死んだって、そんな」
立花と同期で仲が良かった織巻寿々がいつもの明るさもなく呟いた。世長も、美ツ騎も、フミもコクトも、鳳でさえ。
クォーツ生全員が沈黙していた。
立花は子供を庇い、車に衝突された。
俺が駆けつけた時にはほとんど意識はなかったらしく、話せたのが奇跡だと後に告げられる。
病院に緊急搬送されたものの、意識が戻らず、そのまま帰らぬ人となった。
「すまない、今日の稽古は……なしでも良いか」
「うん、こんな状態じゃ出来ないだろうしね」
コクトが気をまわし、江西先生に進言し今日の稽古はなくなった。
俺は、あの日立花を教会に呼んだことを後悔した。
俺が俺の我儘のせいで、お前を死なせてしまった。
嘘が何のことかもわからずに。教えてくれ、立花。
お前は何が言いたかったんだ。教えてくれ、俺に、教えてくれ。
だが答えてくれる、明るい立花の姿はもう無い。
「俺の、せいだ」
もしもあの時。
そんな想像ばかりが頭を埋め尽くしていく。
周りが俺のせいでは無いといくら言葉をかけてくれても、己を自責することを止めることはできなかった。
最終公演。
お前を輝かせてやりたかった。
お前に、舞台の楽しさをもっと教えてやりたかった。
話したかったことがあった。語り合いたい話題があった。
「立花……っ」
初めて涙を流したあの日。
立花は優しく微笑んでいた。
だが、もう俺を「大丈夫ですよ」と慰めてくれるお前はいない。
クォーツはまるで生気を失ったように、いやまさに生気を失ったのだろう。
公演はボロボロで、クラス賞は最下位だった。
個人賞も、取れなかった。
まるで俺たちの心を表すかのように。
立花希佐。
俺は、お前が好きだったのかもしれない。
もう答えもわからない思いを抱きながら、ユニヴェールを後にした。
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2012.8.29 後日談加筆 2013.1.31
神に祝福されるはずのその日、悲劇は起きた。
ユニヴェール78期生で皆のことをよく見て回る、良い後輩ーー立花希佐ーー
そんな自慢の後輩とクリスマスに教会に赴くことになった。
子供達は立花をおにーちゃんと慕いはしゃいでいる。
立花も楽しそうで、つい俺まで嬉しくなってしまう。
こんな感情が俺にもあったのだと、気付かされることが多かった。
ジャンヌ志望の立花をよく慕っている男子が、ケーキを持ってくると出かけてから幾分経った。
立花は「少し遅いですね」と心配しているらしく、「私見てきます!」と俺の返事も聞かずに飛び出していった。
一刻後、悲鳴と轟音。
何かが叫ぶ音と、それに群がる人影が見えた。
ーー嫌な予感がする。
「ちょっと見てくる、お前達はここにいるんだぞ」
そう子供達に告げ、教会の外に出る。
間も無く「立花のおにーちゃん!!」とつん裂くような悲鳴が耳に届いた。
「立花……?」
胸中に膨れ上がる不安と恐怖。何かが、何かがあったのだ。
「立花!!」
次第に足は速まり、冷や汗が溢れ出す。
人を掻き分け群衆の中心に立つと、立花が倒れていた。
……倒れていた。
何故?どうして立花が倒れている?
考えるよりも早く駆け寄っていた。
「誰か救急車を!」
周りの群衆は事故だの倒れてるだの傍観するだけで、誰も手配する様子はない。
こんな時、普段携帯を持ち歩いていない己を恨んだ。
「立花、立花!俺の声が聞こえるか!?立花!!」
「…………カイ、さん……?」
か細い、今にも途切れそうな声が発せられる。
否、溢れたと表現した方が正しいかもしれない。
「大丈夫か、今救急車を教会に手配してもらっている、大丈夫だ、大丈夫だからな!」
「カイ……さん」
顔面は蒼白で、腹部から出血している。
応急処置を施そうが、出血は止まってくれない。
「すみません、心配を……かけて……」
「そんなことはいい!自分の心配をーー」
「ごめんなさい」
思いの外はっきりと告げられた言葉に、思わず息を呑む。
何を、何を謝っているんだお前は。何に対して謝っているんだ。
「嘘を……ついて、いました」
「嘘……?」
「だから、ごめんなさい。それと、ごめんなさい」
立花の瞳から大粒の涙が溢れる。
「私は、大丈夫です」
そう言って彼は意識を失った。
どれくらいの時間が経っていたのだろう。
それ程でも無い気がするが、俺にはとても長く、永く感じた。
「嘘っすよね……?立花が死んだって、そんな」
立花と同期で仲が良かった織巻寿々がいつもの明るさもなく呟いた。世長も、美ツ騎も、フミもコクトも、鳳でさえ。
クォーツ生全員が沈黙していた。
立花は子供を庇い、車に衝突された。
俺が駆けつけた時にはほとんど意識はなかったらしく、話せたのが奇跡だと後に告げられる。
病院に緊急搬送されたものの、意識が戻らず、そのまま帰らぬ人となった。
「すまない、今日の稽古は……なしでも良いか」
「うん、こんな状態じゃ出来ないだろうしね」
コクトが気をまわし、江西先生に進言し今日の稽古はなくなった。
俺は、あの日立花を教会に呼んだことを後悔した。
俺が俺の我儘のせいで、お前を死なせてしまった。
嘘が何のことかもわからずに。教えてくれ、立花。
お前は何が言いたかったんだ。教えてくれ、俺に、教えてくれ。
だが答えてくれる、明るい立花の姿はもう無い。
「俺の、せいだ」
もしもあの時。
そんな想像ばかりが頭を埋め尽くしていく。
周りが俺のせいでは無いといくら言葉をかけてくれても、己を自責することを止めることはできなかった。
最終公演。
お前を輝かせてやりたかった。
お前に、舞台の楽しさをもっと教えてやりたかった。
話したかったことがあった。語り合いたい話題があった。
「立花……っ」
初めて涙を流したあの日。
立花は優しく微笑んでいた。
だが、もう俺を「大丈夫ですよ」と慰めてくれるお前はいない。
クォーツはまるで生気を失ったように、いやまさに生気を失ったのだろう。
公演はボロボロで、クラス賞は最下位だった。
個人賞も、取れなかった。
まるで俺たちの心を表すかのように。
立花希佐。
俺は、お前が好きだったのかもしれない。
もう答えもわからない思いを抱きながら、ユニヴェールを後にした。
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2012.8.29 後日談加筆 2013.1.31