在りし日の面影は。
- 超絶嫌味なレハトちゃん(女)が登場します。
- タナッセ愛情ルート⇒女性分化⇒改めてのプロポーズ時にレハトちゃんの嫌味が炸裂するお話です。
「あなたのこと、本当は嫌いだった」
「何、を…」
一番聞きたくない言葉だった。信じたくない言葉だった。信じたい、人だった。
「私があなたを好きになるはずないじゃない。可哀想な人。私に裏切られて、悔しい?悲しい?辛い?」
辛い。悲しい。だが、悔しくはなかった。どこか受け入れている自分がいた。
「あはは!みっともない顔!今まで見た中で一番おもしろいわよあなた!
いつも馬鹿面下げて私の傍にいる姿も噴飯ものだったけどね!
あははは!いい気味!大っ嫌いよあなたの事なんて。
ああ、でもあなたの今の表情は好きよ?すごく惨めで大好きよ」
「今でも私と結婚したい?傍にいたい?ねぇどう?あ・な・た?」
「ふ、ふざ……っ!」
言葉が出なかった。私が愛していた彼女は、こんな、こんな奴だったのかと。
ああそうだとも。私にお前が手に入れられるなど思っていなかった。
それでも。それでも一縷の望みにかけたかった。
お前の心を掴みたかった。
「まあ、あなたが結婚したいなんて言ってもこっちから願い下げだけどね。
あなたなんてこの城で飼ってどうなるっていうの?そう、あなたが最初に私に言ったように。
私は六代目国王レハト。今この時この瞬間より、お前には二度とフィアカントの地は踏ませない。即刻立ち去るがいい」
ここまで言われては、もう歩み寄ることなど出来ないだろう。
そうだとも。私に、あいつを手に入れるなど、最初から。
あいつは、奴はこういう奴だったのだ。そう思わなければやっていけなかった。
扉へ向かう私を余所に、レハトが口を開いた。
「……ああ、でもただ立ち去らせるだけじゃつまんないわね」
声の方へ振り向くと、レハトは薄気味悪い艶やかな微笑を浮かべていた。
「ねえ勝負しない?あなたが勝ったら結婚でもなんでも、言うこと聞いてあげる。
但し、私も同じ条件で。どう?それとも怖い?臆病者のタナッセさん?私と戦うの、怖い?」
「……殺す気か」
レハトは変わらず微笑み続けるだけだった。
------------------------------------------------------------------------------
足を引き摺る様に試合場へと入る。剣を持つ腕が酷く重かった。
所定の位置に立てば、すぐ眼前にレハトがいる。
六代目国王。美しい容姿と、衛士相手にも引けを取らない剽悍な様。類稀な存在。
どう考えても勝てるわけがない。だが私は勝負を受けた。
どうしても、引きたくなかった。自分が殺されようとも。
「あはは。タナッセが勝負受けるとは思わなかったよ。自分で『殺すつもりか』って聞いてきたのに。
何?もしかして死にたいの?それともそういう趣味?わ、やだ!」
なんとでも言え。
「王よ、所定の位置については頂けないか。……判定役が困っている」
早く終わらせたかった。どんな結末になろうとも。
息をつき、前を見据える。レハトが慣れた様子で口上を告げる。
私も、告げなければ。
「天なる裁定者、大いなるアネキウスよ、かくもご覧あれ。
我が名はタナッセ・ランテ=ヨアマキス。
汝の剣は我が手にあれかし。汝の光は我が背にあれかし。
しからば証せよ、この勝利にて!」
厳かに試合は始まった。
------------------------------------------------------------------------------
勝敗は一瞬で決まった。私は一歩も動いていなかった。
開始と同時にレハトが私の懐に飛び込み、剣を横に薙ぎ払った。ただそれだけだった。
『勝負終了!レハトの勝利!』
判定役が極短く告げる。私の、負けだ。当たり前の結果。
ここで殺されなかったのがせめてもの救いか、それとも地獄か。
「私の、勝ち。呆気ないね。タナッセ弱いなぁ。よくそれで私の勝負受けるなんて言ったね。恥ずかしくないの?」
「……お前の、勝ちだ。さっさと要求を言え。今ここで自害しろというなら、実行してやる」
幾分投げやりに答える。どうせ自分が殺すだのなんだの言うのだろう。
「そんなに死にたいの?やっぱりタナッセってそういう趣味?
……自分で死にたいって言ってる人を死なせるほど、私優しくないよ」
ぞっとするほど綺麗な笑みだった。その笑みに見覚えがあると思った瞬間に気付いた。
ああ、この笑みは。こいつが、私の傍で、常に、していた笑顔だ。
最初に出会った時からずっと嘲笑っていたのだろう。
周到に策を練り、私をまんまと陥れ、こいつはさぞ満足しているだろう。
「そうだなぁ…… タナッセ何がいい?」
「なぜ私に聞く。決めるのはお前だろう。勝者はお前だ」
「だから」
「勝者の私がタナッセに命令してるの。何がいい?ってね」
ふざけるな。
その一言が反射的に出た。
「ふざけてなんかないよ。勝った方の命令を何でも聞く。それが勝負の条件だったはずだけど?違う?」
「……違わない」
そうそれでいい、という顔をレハトがする。
短く逡巡し、鈍る舌で条件を述べようとした時だった。
「ああ、その前に」
なんだ、と聞き返すとレハトは笑った。
「……自分を殺して欲しいとかそんなのなしだからね。つまんないし」
小さく舌打ちした。この状況で生きろだと。とんだ生き恥を晒すだけではないか。
「まさか、殺して欲しいとか思ってた?」
レハトを軽く睨み、条件を吐き捨てるように言った。
「お前と、婚姻を結びたい」
レハトの甲高い笑い声が響いた。
------------------------------------------------------------------------------
元王息と国王との婚約は、瞬く間に城内へと遍満した。
この短い間に何があったのか、だの、元王息を使ってまで、だの、誤想もよいところだ。
「ほんとさ、タナッセって変だよね。何なに?そこまで私の事愛しちゃってた?ねぇあなた〜?」
「黙れ」
うんざりする。なぜ私はあの場面で婚姻などと言ったのか。
そんなこと、分かっている。
……私がそれを、本当に望んでいたからだろう。
手に入らないと思いつつも、僅かな望みにすら縋り、どうしても手に入れたかったもの。
それがレハトだった。
今レハトは私の傍にいるが、満たされることなどなかった。
レハトの態度は変わらず、私を嘲るだけだ。
死ぬことは選べず、かといって退くことも出来ず。
泥沼に自ら足を踏み入れ、生き地獄に晒される。
レハトは嗤うだろう。なんて馬鹿で可哀想な人なのだと。
玉座から見下ろされ、さんざ虚仮にされるその姿は。
城に来たばかりのレハトを、私に思い出させるのに十分だった。
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2012.9.2 UP 2013.1.31
「何、を…」
一番聞きたくない言葉だった。信じたくない言葉だった。信じたい、人だった。
「私があなたを好きになるはずないじゃない。可哀想な人。私に裏切られて、悔しい?悲しい?辛い?」
辛い。悲しい。だが、悔しくはなかった。どこか受け入れている自分がいた。
「あはは!みっともない顔!今まで見た中で一番おもしろいわよあなた!
いつも馬鹿面下げて私の傍にいる姿も噴飯ものだったけどね!
あははは!いい気味!大っ嫌いよあなたの事なんて。
ああ、でもあなたの今の表情は好きよ?すごく惨めで大好きよ」
「今でも私と結婚したい?傍にいたい?ねぇどう?あ・な・た?」
「ふ、ふざ……っ!」
言葉が出なかった。私が愛していた彼女は、こんな、こんな奴だったのかと。
ああそうだとも。私にお前が手に入れられるなど思っていなかった。
それでも。それでも一縷の望みにかけたかった。
お前の心を掴みたかった。
「まあ、あなたが結婚したいなんて言ってもこっちから願い下げだけどね。
あなたなんてこの城で飼ってどうなるっていうの?そう、あなたが最初に私に言ったように。
私は六代目国王レハト。今この時この瞬間より、お前には二度とフィアカントの地は踏ませない。即刻立ち去るがいい」
ここまで言われては、もう歩み寄ることなど出来ないだろう。
そうだとも。私に、あいつを手に入れるなど、最初から。
あいつは、奴はこういう奴だったのだ。そう思わなければやっていけなかった。
扉へ向かう私を余所に、レハトが口を開いた。
「……ああ、でもただ立ち去らせるだけじゃつまんないわね」
声の方へ振り向くと、レハトは薄気味悪い艶やかな微笑を浮かべていた。
「ねえ勝負しない?あなたが勝ったら結婚でもなんでも、言うこと聞いてあげる。
但し、私も同じ条件で。どう?それとも怖い?臆病者のタナッセさん?私と戦うの、怖い?」
「……殺す気か」
レハトは変わらず微笑み続けるだけだった。
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足を引き摺る様に試合場へと入る。剣を持つ腕が酷く重かった。
所定の位置に立てば、すぐ眼前にレハトがいる。
六代目国王。美しい容姿と、衛士相手にも引けを取らない剽悍な様。類稀な存在。
どう考えても勝てるわけがない。だが私は勝負を受けた。
どうしても、引きたくなかった。自分が殺されようとも。
「あはは。タナッセが勝負受けるとは思わなかったよ。自分で『殺すつもりか』って聞いてきたのに。
何?もしかして死にたいの?それともそういう趣味?わ、やだ!」
なんとでも言え。
「王よ、所定の位置については頂けないか。……判定役が困っている」
早く終わらせたかった。どんな結末になろうとも。
息をつき、前を見据える。レハトが慣れた様子で口上を告げる。
私も、告げなければ。
「天なる裁定者、大いなるアネキウスよ、かくもご覧あれ。
我が名はタナッセ・ランテ=ヨアマキス。
汝の剣は我が手にあれかし。汝の光は我が背にあれかし。
しからば証せよ、この勝利にて!」
厳かに試合は始まった。
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勝敗は一瞬で決まった。私は一歩も動いていなかった。
開始と同時にレハトが私の懐に飛び込み、剣を横に薙ぎ払った。ただそれだけだった。
『勝負終了!レハトの勝利!』
判定役が極短く告げる。私の、負けだ。当たり前の結果。
ここで殺されなかったのがせめてもの救いか、それとも地獄か。
「私の、勝ち。呆気ないね。タナッセ弱いなぁ。よくそれで私の勝負受けるなんて言ったね。恥ずかしくないの?」
「……お前の、勝ちだ。さっさと要求を言え。今ここで自害しろというなら、実行してやる」
幾分投げやりに答える。どうせ自分が殺すだのなんだの言うのだろう。
「そんなに死にたいの?やっぱりタナッセってそういう趣味?
……自分で死にたいって言ってる人を死なせるほど、私優しくないよ」
ぞっとするほど綺麗な笑みだった。その笑みに見覚えがあると思った瞬間に気付いた。
ああ、この笑みは。こいつが、私の傍で、常に、していた笑顔だ。
最初に出会った時からずっと嘲笑っていたのだろう。
周到に策を練り、私をまんまと陥れ、こいつはさぞ満足しているだろう。
「そうだなぁ…… タナッセ何がいい?」
「なぜ私に聞く。決めるのはお前だろう。勝者はお前だ」
「だから」
「勝者の私がタナッセに命令してるの。何がいい?ってね」
ふざけるな。
その一言が反射的に出た。
「ふざけてなんかないよ。勝った方の命令を何でも聞く。それが勝負の条件だったはずだけど?違う?」
「……違わない」
そうそれでいい、という顔をレハトがする。
短く逡巡し、鈍る舌で条件を述べようとした時だった。
「ああ、その前に」
なんだ、と聞き返すとレハトは笑った。
「……自分を殺して欲しいとかそんなのなしだからね。つまんないし」
小さく舌打ちした。この状況で生きろだと。とんだ生き恥を晒すだけではないか。
「まさか、殺して欲しいとか思ってた?」
レハトを軽く睨み、条件を吐き捨てるように言った。
「お前と、婚姻を結びたい」
レハトの甲高い笑い声が響いた。
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元王息と国王との婚約は、瞬く間に城内へと遍満した。
この短い間に何があったのか、だの、元王息を使ってまで、だの、誤想もよいところだ。
「ほんとさ、タナッセって変だよね。何なに?そこまで私の事愛しちゃってた?ねぇあなた〜?」
「黙れ」
うんざりする。なぜ私はあの場面で婚姻などと言ったのか。
そんなこと、分かっている。
……私がそれを、本当に望んでいたからだろう。
手に入らないと思いつつも、僅かな望みにすら縋り、どうしても手に入れたかったもの。
それがレハトだった。
今レハトは私の傍にいるが、満たされることなどなかった。
レハトの態度は変わらず、私を嘲るだけだ。
死ぬことは選べず、かといって退くことも出来ず。
泥沼に自ら足を踏み入れ、生き地獄に晒される。
レハトは嗤うだろう。なんて馬鹿で可哀想な人なのだと。
玉座から見下ろされ、さんざ虚仮にされるその姿は。
城に来たばかりのレハトを、私に思い出させるのに十分だった。
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